1.光科学専攻とは

 今世紀の社会の大きな特色の一つは,科学技術の爆発的といってもよい進展と,その社会様式への大きな影響にあります。中でも,1950年以降の半導体を用いたエレクトロニクス技術の開発と,それに基づく電子計算機の出現は,新しい情報化時代を生み出し,その影響の重大さは自然科学にとってのみならず,社会科学にとっても今後の発展を方向づける根本的な要素となりました。
 そして,レーザー技術の急速な開発と相まって,次の半世紀には"電子"技術に加え"光"技術が社会の変革に基本的な役割を果たすであろうことは確実に予測されています。すでにエレクトロニクスは光技術と結びついて"オプトエレクトロニクス"に変身しつつあり,光の世紀ともいわれている21世紀の幕開けはもう目前です。
 このような状況を見るに光を中心とした科学は,今後予想されるあらゆる方向への展開を推進する研究者,技術者の養成のみならず,広く人間社会全般における人と光の接点の研究において必要不可欠な人材を育てる学問領域になると考えられます。
 そこで,総合研究大学院大学では,光技術を支える光の特性と光と物質,人間,社会との関りあい(相互作用)を基礎的観点から研究することにより,来るべき"光の時代"を先導する学問領域として「光科学」を選びました。そして,この学問領域の開拓のために先導科学研究科の中に「光科学専攻」を設置し,物理学,化学,生物学等の自然科学分野と人文科学,社会科学等を"光"を通して総合化し,新たな自然観の構築,新たな分野の創出を目指します。

2.設置の経緯

 本学では,本学を構成する基盤機関において世界的な水準にある研究分野・領域を横断的に結び総合化することによって独創性豊かな学問領域の創成を目指すとともに,この分野の高度な人材養成を目的として平成9年4月に「先導科学研究科」を設置しました。
 総合化の対象となる学問領域は,本学が開設している学問分野に限っても,統計科学,加速器科学,放射光科学,構造分子科学,機能分子科学,天文科学,核融合科学,極域科学,遺伝学,分子生物機構論,生理科学などの自然科学系分野,及び地域文化学,比較文化学,国際日本研究等の人文社会科学系分野と多岐におよんでいます。
 先導科学研究科は生命体科学専攻,光科学専攻の2専攻構想からなっており,両専攻とも昭和61年度の本学の創設準備調査委員会レベルで本学の当初構想に盛るべき新研究科の分野として着想されたものです。以来,広く我が国内外の学術研究状況を概観し,また,「総合化された新しい学問領域」創出の可能性について,全学を横断的につなぐ共同研究やグループ研究を精力的に推進し,今日に至るまで光科学専攻のより具体的な検証に取り組んできました。その結果,平成9年度の生命体科学専攻に引き続き,光科学専攻も平成10年4月に設置され,平成11年度からの学生募集と共に本格的な教育・研究活動を行っています。

3.光科学の背景

 光が自然界の基本的な構成要素であるとともに,エネルギーと運動の源であることは疑いようがありません。光は,宇宙の始まり,生命の始まり,文明の始まりのそれぞれの段階において,ビッグ・バン,太陽エネルギー,火というように様々な名で呼ばれますが,すべての段階できわめて重要な役割を果たしてきました。
 光は,その圧倒的なエネルギーとしての側面を人類に誇示してきただけではありません。大は宇宙から小は素粒子に至るまで,自然界における物質存在のすべてのスケールにわたって,様々な波長の光が観察・観測の道具として使われています。望遠鏡・顕微鏡のように自然の光をそのまま使うだけではなく,現在は加速器やレーザーなどを使っていろいろな種類の光を人工的に作りだし,それを観測道具として用いています。なかでも特筆すべきはレーザーの発明であり,これは原子・分子過程の解明に革新的な手段をもたらしました。
 物質から生成する光は,物質ともろもろの相互作用の過程を経て,再び物質へと還元されて検知されます。このような物質と光の多種多様なやりとりには未だ解明されていない多くの問題があります。光は生命の始まりから遺伝子を変異させて生物の進化をもたらしましたし,動物には「あかり」としての光を感知させる一方,植物には光で形態形成させると同時に,光合成を通して動物の生命を支えるに至っています。このような光と生物との関わりも,最近では分子レベルでの理解に進みつつあります。
 また,光が,古代の「のろし」から,現在のラジオ・テレビまで,文明社会の情報の伝達など,人間社会の発展に広く関わってきたことは改めて言うまでもないことでしょう。特に,1950年以降の半導体活用の発展とレーザー技術の進歩が相まって,光エレクトロニクスによる情報処理と伝達技術の驚異的な進歩は新しい情報社会の世紀を開きつつあります。

4.光科学専攻の目的と特色

 このようにして,光は自然と人間の広汎な活動に深くかかわり,その展開に重要な役割を果たしてきました。しかし,従来の自然科学分野では,光は単なる物理的媒体としてとらえ,物理的現象の一部として光と物質との関りあいが研究されてきた経緯があります。すなわち,光はあくまで相互作用をする対象物質の構造や状態を照らしだす道具として用いられることが大部分でした。したがって,従来の光関連科学は往々にして観察対象ごとの個別的な分野での先鋭化が行なわれてきたと言っても過言ではありません。
 しかし,本専攻では,最近新たな展開を示しつつある光と物質の相互作用や量子光学の理論及び実験を基盤として,光に機能性や制御性といった,ある意図された役割を担わせることにより,より能動的な立場で光を用いる方法論を開拓し,いわば光制御学とでも呼ぶべき新たな光科学分野を創出しようとする点を第1の特色としています。

 一方,光は人間社会においても,文明の初期の段階から引き続き,物質的だけでなく精神的にも基本的な役割を果たしてきています。太陽エネルギーは,植物の育成を促し,それをエネルギー源とする人間生活に大きな影響をあたえています。また,光は地球のどの場所でも人間の精神活動の象徴です。文明が進むに従い,光は外界認識の手段や知識情報の伝達手段としても中心的な働きをしてきました。さらに,光は,情報伝達手段としての役割の重要さから,我々の文化活動にも多大な影響を与えています。今後,光を使った情報科学の発展により,光と人間の関係は,再び,新しい局面を迎えることが予想されています。こうした両者の関連に着目し,自然・人文両科学の面から光の科学を総合的に推進することが,本専攻の第2の特色です。

 このような点に注目して,本専攻の教育研究を推進することにより,来るべき「光の時代」を先導し,また,その基礎となる新しい学問分野が開かれることを本専攻は目指しています。

5.専攻の基本構成

 光科学専攻は,光と物質との相互作用をもとに,物質の光応答,エネルギーや物質の変換における光の役割について総合的に教育研究する光基礎科学講座と,光の情報伝達媒体としての役割を中心に,人間個人および集団・社会に影響をもたらす光環境に関する総合的な教育研究を行なう光環境科学講座の2大講座から構成されています。それぞれの,講座の教育研究分野は次の通りです。

1) 光基礎科学講座
2) 光環境科学講座

6.主な連係基盤機関

 本専攻の主な連係基盤機関としては、分子科学研究所、基礎生物学研究所、高エネルギー加速器研究機構、核融合科学研究所、統計数理研究所、があります。